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教育者の職分

投稿|2025年01月21日  更新|


助教に着任する前,わたしは,新しい環境でいかに気持ちよく研究できるようにするかにばかり腐心していました. ところが,とある研究者から「わたしと同様かそれ以上のレベルで研究を行える人材を教育・育成すること」も, 大学に勤める研究者の職分であることを指摘されて,教育者としての心構えがなっていないことを痛感したのでした.

学生の指導もがんばるぞ,と心を新たにして職務に意気込む毎日ですが,難しさを感じることもたくさんあります. まず,裁量(2024/11/06)でも述べましたが, 修士課程の学生にとって,修士研究に打ち込む時間を確保しにくいのが現実です. バイトや就活に励み,就活が終わっても入社する企業から課される課題や資格の勉強があります. また,実業家のごとく,大学が敷いたレールを外れ自らの道を進み続ける学生もいます(それはそれで素晴らしい). そのような環境下で,修士研究がおろそかになってしまうのも無理からぬような気もします.

したがって,指導にかけられる時間が限られます. 研究の計画,方針の決め方,既往研究のサーヴェイ,分析の方法,アカデミックライティング,発表資料の作り方など, 指導すべきことはたくさんあるように思います. 限られた時間で何をどう伝えたらよいかを考えることが, 教育者としての経験が浅いわたしにとって最もハードに感じていることのひとつです. また,研究者わたしの技能や知恵を言語化することも道半ばです. 研究者としてだけではなく教育者としても,経験を積むことが重要なのだと感じています.

とはいえ,修士研究には2年という期限があるので,どんな形であれ終わりは来ます. なので,学生は修了のために,終わり際とんでもない仕事量を発揮します. 着任してまだ3ヶ月余りですが,本気を出した学生のパワーに驚かされました. 特に,提出前最後の1ヶ月の圧倒的な進捗. 前と後では見違えるほどの改善ののち,先日,わたしが指導に携わった最初の学生が修士論文を提出しました.

その潜在能力を見てしまうと,やはり,それまでの期間が惜しく感じられます. もっと早くに打ち込めていれば,もっとインパクトのある内容になったのではないか.

先ほど,学生には研究にかけられる時間が限られていると言いました.しかし, 研究することの意義を学生に理解してもらえていないから,研究に時間をかける選択をしてもらえていないのかもしれません. 先日論文を提出した学生は,少なくとも,圧倒的進捗を生んでいる間「研究って楽しい」と感じてもらえていたのではないかなと期待しています. また,新しい知見を生み出せる,文章が書ける,発表資料が作れるようになれば,社会人生活で必要な能力の半分くらいはカバーできると思うので, プラクティカルな部分でも魅力的だと主張したいです. そうしたことを早い段階で学生に伝える努力が必要です. そして,教育者の職分を全うするなかで,研究を通じて成長を感じてもらえるように,ひとりでも多く研究ができる人間を輩出できるように, 研鑽し続けます.

田端祥太
e-mail: tbtgoat.contact[at]gmail.com